生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)


エピローグに本書のテーマが語られている。

生物を無生物から区別するものは何かを、私たちの生命観の変遷とともに考察したのが本書である。
(中略)すなわち、生命とは何か、への接近でもある。

接近、という言葉を使っていることから分かるように明確な答えはまだ出ていない。それでも本書を読むことで生物学という分野の面白さ、生命の尊さは十分伝わる。
特に「第9章 動的平衡とは何か」は読んでいて興奮した。生命はその秩序を保つために破壊を繰り返す。半年〜1年で身体を構成していた分子レベルではすっかり別のものになっているという。

私たち生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかない。しかも、それは高速で入れ替わっている。この流れ自体が「生きている」ということであり、常に分子を外部から与えないと、出て行く分子との収支が合わなくなる。

このような視点に立つと、自分の身体というものが何か今までとは違って見えてくるから不思議だ。
事実、不思議という点でいくと、本書にも出てくるのだがある種の遺伝子を完全に欠落させたマウスを作っても、なんら異常のない正常なマウスが出来上がるらしい。機械であればそうはいかない。意味あっての部品なのでその部品を欠落させた場合、何らかの異常が出るのが常だ。しかし生命は成長の過程で欠落を補完するというのだ。生物学の面白さが分かり、興奮を覚えた瞬間であった。


前半はDNA発見など生物学という研究分野が辿ってきた歴史が分かりやすく、かつ著者の巧みな文章で記述され、ただ面白いだけでないものに仕上がっている。エピローグ、プロローグの文章は特に秀逸だと感じた。DNAの2重螺旋発見の裏で、かわいそうな女性がいたことも物語に深みを持たせる一因となっている。

余談 ITとDNA

情報系の人間としては、DNAの仕組みが興味深く映った。
DNAは4種の塩基で構成されている。コンピュータは0と1の2種で表現されるが、DNAはA,C,G,Tの4種で表現される。生命は情報を4のn乗で扱うのだ。なんで4種なのかは明らかにされなかったが、効率的だとかきっと意味があるんだと思う。4進数のものって他になにかあるか、と思ったとき1つだけ思いついた。それは江戸時代の通貨。1両 = 4分。1分 = 4朱。前に落語会に行った時に噺の中に出てきた。だからどうってわけではない。ま、余談。
またDNAは2重螺旋になっている。これも有名な話。しかしなぜそうなっているかは知らなかった。これは冗長性を持たし、ミラーリングを実現しているのだった。細胞が紫外線やストレスで傷ついても復元できるようになっているらしい。うーん、面白い。